魍魎の匣第5話「千里眼の事」

小倉百人一首の三番に、柿本人麻呂作として
「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」
という歌がある。
「あしびきの」は直後に「山」を導く枕詞であり、「〜しだり尾の」までが全て「ながながし」を導く序言葉となっている。
言ってしまえば上の句は全て前置きであり*1、下の句への大胆かつ非常にスムーズな飛躍が美しい。
個人的小倉百人一首ランキング二位。(一位は九十九番の後鳥羽院の歌)
 
さて、魍魎の匣第五話「千里眼の事」は、いきなり前回までの舞台から60年ほど遡り、明治13年
実在した「千里眼事件」の描写から始まる。
三船千鶴子、長尾郁子という二人の女性が持つとされた超能力「千里眼」と、
それを科学的に検証しようと試みる研究者たち、そしてこぞってそれを取り上げるマスコミ。
事件は検体のすり替えなどの妨害やマスコミの偏った報道などを経て、
千鶴子の自殺、郁子の病死という形で幕を閉じる。
といった事件のあらましが10分間に渡り、こと細かに描かれ、
そして時代は戻って昭和27年、「薔薇十字探偵社」にて探偵業を営む男、榎木津礼二郎が登場。
「この男には、見える、らしい。」というナレーションで、Aパートは幕を閉じる。
 
Bパートでは、増岡が榎木津に依頼を持ち込み、まだ話してもいない事件の内容を次々と言い当てられ、
一方で関口に案内されて鳥口が京極堂を尋ね、初対面のはずの京極堂に過去のことを次々と言い当てられる。
榎木津には本当にその手の能力があるようだが、京極堂は本人が「世の中に不思議なことなどない」と言うように、
何らかのトリックを使っているようだ。(誰にでも当てはまるような抽象的なことを言う、って奴かな)
 
Aパートを全て今回のテーマである「千里眼」に関する具体的な事柄の紹介に割き、
それによって今回初登場の榎木津の能力を違和感なく視聴者が受け入れられるようになっている。
千里眼事件」の描写が呼び水となり、榎木津礼二郎というキャラクターを自然に物語に溶け込ませているのだ。
ストーリーはほとんど進展していないにもかかわらず、非常に濃い内容だったかのように感じられる。
おそらく原作から使われている技法なのだろうが、非常に説得力のある形でアニメ化されていると思う。
 
久々にアニメのシナリオで“interesting!”と感じたのでちょっと遅めの感想を書いてみた。
いやあ、当たりだな。

*1:山鳥のつがいは山を隔てて寝るという伝説を引用する意味もあるので、全く無関係ではない