電王、完結。

ちょっと書くのが遅くなったが・・・


仮面ライダー電王がついに完結した。
1年通して全部見たライダーはこれで5作目、
そしてその5作(龍騎、555、剣、カブト、電王)の中では最高の傑作だ。
最終回近辺で謎が次々と明かされ、まさにクライマックスの様相を呈していたが、
ブログでPも語るとおりこの作品の真髄は「謎」ではなく、「ドラマ」である。
ずいぶん前のこのブログにも書いたが、俺はしっかりしたドラマを持った作品が大好きだ。
その点で龍騎や剣の後半、響鬼の前半とかを支持するわけだ。
で、今回の電王の物語を総括するならまさに「愛と理(=因果律=時間)」と言えるだろう。
過去と現在、そして不確定な未来が入り乱れ、人と人との絆が謳われた一年間だったように思う。


さて、終盤にさまざまな謎が解明された今作だが、語られていないことも多い。
特にハナについては、一見すると矛盾しているように思えることも残っていたりする。
(コハナについてはもはや何も言わない。ネットでかなり説得力のある説*1が出回っているが、俺は支持しない)
ちょっと考察してみたので書き残しておく。




まず基本設定として、人の記憶が時間(過去)を保障する、というものがある。
劇中では侑斗により、「人の記憶こそが、時間なんだ」と説明された。


介入者によって時間に改変が加えられても、改変前のことを覚えている人間の記憶に基づいて、
改変前の状態に時間が復元される。
復元が起きる理由については、おそらく「その方が自然だから」であろう。
これにより、過去でイマジンが暴れ、ビルとかが壊されまくって明らかに死人がいっぱい出ても、
一定時間が経つと元通りになる、ということになる。


だが、劇中で語られたようにこれには例外がある。
記憶の欠落や、そもそも人と関わっていなかったこと、ゼロノスカードの使用などにより、
ある人物のことを覚えている人間がいなくなってしまった場合、
復元の基盤となる記憶が存在しないため、その人物が時間から消滅しても、復元することが出来ない。
劇中で復元されなかった人物としては第14話(だっけ?)の「ピアニスト」が代表的だろう。
このようにして復元されず、時間から欠落してしまった人々は、時の列車に乗って旅をするのだという。
現に14話では、復元されなかったピアニストがデンライナーに乗り込んでくる。


ここで、ハナについて考えてみる。
最終話で、ハナは愛理と桜井の娘である事が明かされる。
2007年1月10日、桜井はゼロノスカードの副作用を利用し、愛理と良太郎から愛理の妊娠に関する記憶を消し去った。
そしてその直後、カイによって世界は一度崩壊し、直後に良太郎の記憶を元に再構成された。
(彼は特異点であるがゆえ、カイによって世界のすべてが崩壊しようと、その直後、未来の良太郎には影響がないのである。
 特異点は、タイムパラドックスを無視して「それぞれの時間の自分」を維持できる存在であるといえる。)
しかし、その時点の良太郎には愛理が妊娠しているという記憶がない。
ゆえに、再構成された世界では愛理は妊娠していないことになり、胎内のハナの存在も消滅した。
ところが、ハナもまた特異点。歴史改変による胎児の状態のハナの消滅は、
「改変前の未来」に問題なく存在していたハナに影響を及ぼさない。


特異点が自分の「誕生」を保証してくれる時間を失う。
これは劇場版「俺、誕生!」において牙王が画策した良太郎に対する切り札と似ている。


果たして、ハナは「自分の時間が消滅した」状態でデンライナーに乗り、物語に登場することとなった。
特異点である彼女は、「存在」を維持することは出来たが、
「自分と時間との矛盾」により、時間からはじき出されてしまったと考えられる。
つまり、ハナの時間が消滅したのではなく、「ハナが時間から消滅」していたのだ。


最後のゼロノスカードの使用によって桜井侑斗に関する全ての記憶は失われ、
すなわち彼は消滅し、彼が愛理のもとに戻ることはなくなった。
若き桜井侑斗は、もはや彼とは別の人間として、これからの人生を歩んでゆくはずである。
そしてその誕生そのものを忘れられ、すなわち否定されたハナは、これからもずっと時の列車に乗り、
「時間の中」を旅し続ける運命にある。
その誕生を保障する記憶は、二度と戻ることはないのだ。
彼女はもしかしたら、このストーリーにおける最大の犠牲者なのかもしれない。


と、ここまで考えて、じゃあハナとピアニストはいったいどう違うんだろう、という疑問がわいた。
どちらも、時間の修復に預かれず、存在することが出来なくなってしまった人間である。
しかし、ハナとピアニストには、特異点とそうでない者、という天と地ほどの差があるはずだ。
特異点は、「そのときの自分」を時間がいかに改変されても保つことが出来る者、と定義した。
では逆にそうでない者は、時間からこぼれるとどうなるのか・・・
「いつの自分でもない者」になってしまう、ということだろうか。
つまり、自分の中の時間、すなわち「記憶」を失ってしまう、と考えればつじつまが合うかもしれない。
時間による裏づけを失った人間はもはや「存在」ではなく、「抜け殻」みたいなもの・・・。


もしかするとカイが使役していたイマジンの正体は、時間からこぼれた人々だったのかもしれない。
彼らは現代の人の記憶に頼らなければ形を得ることもかなわず、
モモタロス曰く「思い出せるような過去はない」のだというから、上の仮定と合せ考えれば矛盾はない。




まだ疑問は残っている。
愛理によればハナこそがイマジンが狙っていた分岐点であり、
彼女を「隠すため」に桜井はカードを使ったのだという。
しかし、直後に世界が一度崩壊し、良太郎の記憶をもとに再構成されたため、
ハナは時間から「こぼれて」しまった。再構成の時点で、良太郎が彼女を覚えていなかったからだ。
果たしてこれは、計算の内か、それとも誤算なのか。
もし、「カードによる記憶の欠落」が、
愛理や良太郎に話してしまった「事情」を忘れさせるためのものだったなら、
このことは全に裏目に出たことになる。
分岐点であるハナの消滅は、イマジンの目的そのものなのだ。
故意にせよ誤算にせよ、桜井はイマジンの侵略の片棒を担いでしまったことになるのだろうか・・・?




また、幾度も語られる「時の運行を守る」という文句。
ハナが本当に分岐点だったのだとすれば、1月10日にハナの存在が時間から抹消された時点で、
既に時の運行は乱されるどころか、「修復がきかない」状態に陥っている。
「時間の中」で洞窟から伸びてきていた謎のレールは「僕たちの時間につながる」と良太郎は言ったが、
それは決して、もとの正しい時間(ハナが存在できた時間)につながるものではない。
ある意味この戦いは、完全敗北を引き分けに持ち込むための戦いだった、と言えるのかもしれない。
希望のある言い方をするならば、
彼らがこれから歩む未来は、彼らが一から作る、まったく新しい未来なのである




もうひとつ。
特異点であること、自分の存在する時間を持たないこと
この二点でハナと共通する人物が一人いる。


カイである。
彼は特異点を自称している。2007年に身体を持って来れることから見ても間違いないだろう。
そして、彼は自分の時間に現在をつなげるために分岐点を狙っているという。
それはつまり、彼は現時点で自分の時間を持っていないということだ。


こんなことがあったとしよう。


一組のカップルがいる。女性は妊娠しているが、二人ともまだそれに気づいていない。
そして、その胎児は特異点であるとしよう。(時間1)
その胎児はそのまま無事に生まれ、成長し、青年となる。(時間2)
ところが、時間1に何者かが介入し、その影響でカップルは命を落としてしまう。
その後、周りの人の記憶によりカップルは復元される。
ところが、誰にもその存在を知られていない胎児は復元されない。(時間1’)
そして、胎児の存在しない時間が刻まれてゆく。(時間2’)
誕生の記憶を抹消された青年は時間2’には存在できず、時間からこぼれ落ちる。


「時間の中」に投げ出された青年は、自分の時間を取り戻すべくさまよい続け、
「2007年の桜井侑斗」というひとつの回答を得る。
彼は同じように時間をさまよう人間たちをかき集め、時間を手に入れるべく、2007年に向かった・・・


あくまで想像だが、カイの悪行の裏にはこんなちょっと悲しい物語があった、のかもしれない。




追記:ゼロノスカードの効果
桜井侑斗曰く、「カードを使うのも悪いことばかりじゃない」
デネブと契約する以前の彼がイマジンに殺害され、タイムパラドックスが発生したことがあった。
若き桜井侑斗は「デネブをよろしく」と言い残して消滅。
デネブは良太郎に憑依しており、桜井侑斗は存在しなかったという前提で世界が再構築されていた。
しかし、しばらくしてから彼は何事もなかったかのように復活する。
上の台詞はそのときのものである。さて、その心は。


良太郎は「僕は桜井さんのこと覚えてる」というが、それでは足りない。
彼は愛理と出会う前の桜井侑斗を知らないからだ。
そして桜井侑斗に関する記憶は、ほとんどの人の中から消えてしまっている。
彼の存在を復元するには、人の記憶が足りなさ過ぎたのだ。


が、ちょっと待ってほしい。
そもそもゼロノスカードは、使うごとに使用者に関する記憶を消費するものだ。
普通、そのようにして自分の人生の記憶(時間)のどこかに穴が開いてしまえば、
その穴から先、その人物は過去を持てず、存在できなくなるはずである。
記憶に開いた穴は、その時点での「死」と同義なのだ。
だが、ゼロノスカードをおそらく10枚以上消費しても、桜井侑斗は完全には消滅しなかった。


おそらくゼロノスカードには、使用者をタイムパラドックスから遠ざける性質があるのだろう。
因果律の縛りを緩める、と言ってもいいかもしれない。
過去にどんなことが起きても、その影響を排除してとりあえず現在の存在を維持する、
使用者を一時的、限定的に特異点にする、そんな効果があったのではないだろうか。




もうひとつ追記:手遅れになったのはいつ?
上で、完全敗北を引き分けに戻す、と書いたが、間違っていたかもしれない。
カイがやってきた時間は、あくまで2007年の1月であり、
それ以前にはイマジンの侵略はなかったと思われる。
イマジンは必ず2007年に現れ、そのあと過去に跳んでいるからである。
桜井侑斗がゼロノスとしてイマジンたちと戦う場面が回想で出てきたが、
あれは客観的な過去ではあってもカイの主観的な過去かどうかはわからないのだ。


個人的予想では、ゼロノスが戦っていたのは「2007年から跳んだ」イマジンであり、
カイが世界を崩壊させた1月10日は、カイの主観では45話時点のはずである。
実際、46話冒頭で「変わってねえな」との台詞があるのだ。(話数はうろ覚え・・・)
彼は1年近く桜井を追い続け、12月に入ってやっと仕留めた、ということである。
つまり、これ以前にカイを倒すことに成功していれば、あるいは・・・




基本過ぎて忘れてた、最後の疑問。
いったい、カイの野望はどうすれば成就されたのだろうか。
彼は何らかの筋で「桜井侑斗を時間から抹消すれば時間を取り戻せる」
という情報を得て、それをもとに行動していたはずである。
実際にはその「分岐点」は桜井侑斗ではなくハナだったということが語られるが、
これが妙だ。


上記のように、ハナは既に時間から消滅している。
彼女と時間との因果は完全に絶たれているのだ。
イマジンの目的は、番組当初から達成されていることになってしまう。
しかしまあ、そんなことはないわけで。


更に言うならば、時間との因果が完全に絶たれているハナの存在が
イマジンの未来への接続を妨害できるわけがないから、
最終話の良太郎の説明も矛盾している。俺の仮定、どっか間違ってるか・・・?


実に謎だ。これほど基本的なことが番組最大の謎として残ろうとは。
もう少し熟慮が必要ですな・・・
 

*1:愛理と桜井侑斗の出会いのタイミングが未来にずれ、誕生するのが遅くなったから