東宝特撮復活・・・の“兆し”

ゴジラ×メカゴジラ [DVD]

ゴジラ×メカゴジラ [DVD]

74年以来の鉄板ライバルキャラクター、メカゴジラがミレニアムシリーズに登場。
 
今回のメカゴジラは完全な機械ではなく、ファーストゴジラの骨をベースに作られた
いわば「人造怪獣」である。斬新なアプローチだと思う。初代の真逆というか。
で、メインコンピュータにゴジラのDNA配列をベースにしたDNAコンピュータなるものを搭載しているのだが、
それが原因で一度は暴走。エネルギーが尽きるまで手に終えない状態になったりもする。
 
ゴジラシリーズには珍しく「首相」が登場する作品であり、中尾彬演ずる首相が
一度は暴走し街に被害を与えたメカゴジラの扱いに苦悩するシーンなどもある。
 
主役は釈由美子宅間伸。この釈のキャラクターがどうにも掴みづらい。
以前メーサー車部隊にいた際に自分の過失で同僚を死なせ、その責で司書職に甘んじていたのだが、
メカゴジラ部隊「機龍隊」の結成に際して前線に呼び戻される。
で、過去の過失を同僚になじられたり、本人が極端に無口なせいもあり、集団になじめない人物として描かれる。
 
この本人が極端に無口と言うのが、視聴者をも彼女から遠ざける原因を作ってしまっている。
正直、最後まで見ても彼女がどのような人物なのかほとんど理解できない。
暴走したことで世論から爪弾きにされたメカゴジラに対する共感は理解できるところだが。
 
宅間伸とその娘が釈に接近し何とか心を開かせようとする展開になるのだが、
その点で重要な責を担うはずの宅間の娘がどうにも単なる“子供”から抜け出せない感もある。
子供と大人の間の、分かっているようで分かっていない、分かり合えないようで分かり合える、というような
微妙な距離感を演出したかったのではないか、と思えるほど、釈との対話シーンの印象は中途半端だ。
もうちょっとちゃんとした交流を描いても良かったのではないか。せめて釈のキャラクターの人物像が
ある程度はっきりするくらいには、と思う。
 
さて、特撮の話に入ろう。
以前同じ手塚監督の手による「メガギラス」の感想を書いた時に「持ち直した」と表現したが、
今回は表題の通り、「復活の兆し(あくまで兆し)」を見ることができると感じる。
ミニチュア特撮のクオリティはかなり向上しており、川北レベルには遠く及ばないまでも、
ちゃんと見ていられるものになってきている。*1
しかし、やはりカメラワーク等の問題から、巨大感や重量感の演出には不満が残る。
港における戦闘では悪い意味で「足元が見えてしまう」カメラワークが印象に残っているし、
空中切り離しからCGによる飛行シーンは非常にいいのだが、その後の体当たりのカットがもはや笑うしかない出来だったり、
あと、ゴジラを投げるカットも結構酷かった。いや投げること自体が悪いとは言わない。問題は動きだ。
 
怪獣特撮のキモは高速撮影にあると思う。要するにスローモーションだ。
ゴジラはでかい。ひたすらにでかい。ならば、生物として普通の動きでも、ゴジラが行えば非常に鈍重に見えるはずだ。
それから重力の問題もある。海から上がったゴジラの口から滴る水が、1秒もたたないうちに地面に落ちてはおかしいのだ。
ミレニアムで言えばゴジラの身長は50メートルである。本当は2メートル程度しかないきぐるみでそれを表現するには、
やはり高速撮影しかない。
 
だが、これが怪獣同士の格闘になると難しくなってくる。
高速撮影では実際の画面の動きはスローモーションになる。下手をすると動きにキレがなくなってしまう。
川北監督はその辺をかなり意識していたようで、怪獣に「取っ組み合い」を決してさせなかった。
二足歩行しているとはいえゴジラも動物。腕力を駆使したプロレス的戦法は取らないだろうということらしい。
必然的にゴジラの主要な攻撃手段は熱戦、噛み付き、そして尻尾による打撃ということになる。
その辺の研究の成果は、まあ平成シリーズの戦闘シーンを見ていただくとして、
「機龍」の話に戻ろう。
 
「機龍」はものすごい勢いで取っ組み合いをするメカゴジラである。
中長距離兵装も装備してはいるが、ひとたびバックパックを捨てて「高機動モード」になると
ゴジラに積極的に接近してつかみかかり、投げる、投げる。
怪獣による投げがそんなに珍しいわけではない。筆者が特別扱いしている平成シリーズにだって、
VSモスラゴジラがバトラをぶん投げるシーンがあるし。
しかし問題のカットは、メカゴジラの動き、撮影、合成その他いろいろな要素を感じ取れて、
「頑張ったカットなんだな」というのは分かるのだが、どうも良くない。
コンテを切った時点では「このカットかっこいい!」と思ったんだろうけれど、
物理的に映像化するのが厳しくて、合成に頼った感じもする。
その辺、きぐるみと撮影技法だけで見せていったほうが、特撮の映像には説得力が出ると思うのだが。
 
まあ、いろいろ書いたが別に見れない作品ではない。脚本にも撮影にも文句の付け所はあるにせよ、
メガギラスのような安っぽさ(特にセットの)もなければ、GMKのようなオカルト臭さ(GMKはここだけが残念)もない。
ドラマがあんまり大したことない、というのはあるが、まあゴジラ映画では良くあることである。
ミレニアムの中では平均点をあげられる作品ではないだろうか。
 

*1:今にして思えば、メガギラスで持ち直したと表現したのはいささか甘すぎたかもしれない