叶えたい夢はありますか

力を手に入れる可能性があって、力があって、そして実際に手に入れて。しかし、その力をどう使うか。
自らの中に行き場のない膨大なエネルギーを宿したとき、やはり人は、破滅に向かうのだろうか。

太陽を盗んだ男 ULTIMATE PREMIUM EDITION [DVD]

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自らの力で原子爆弾を作り出した中学教師が、日本政府に挑む。
が、政府を脅迫してまで要求する内容は恐ろしく滑稽。
彼にとっては、原爆を作り出して体制と渡り合う力を得ることが既に自己目的化されてしまっていて、
一度それを手に入れてしまうと、もはや次の目的が見えなくなってしまうのだ。
綿密な計画性ととてつもない行動力を併せ持つ主人公だが、彼には叶えるべき夢がなかった。
 
ついに彼は、原爆によって政府を脅迫できることをラジオで公表し、
リスナーから要求を募集するという突飛な行動まで起こす。
女性DJは「原爆の人は私たちに夢を与えてくれた」と言うが、そんなものは幻想でしかない。
ラジオの「原爆コーナー」に要求を寄せたリスナーだって、
政府を本当に脅迫できるのか、などというのはどちらでもいいことだったはずだ。
それが叶うかどうかなど問題ではない。現実とは完全に無関係な、幻想の中だけの「夢」。
あるいは、「夢」というものは、もはや幻想の中にしか存在し得ないのか。
 
79年の作品だが、描かれている厳しい現実の中で荒んだ若者の心は、むしろ現代と多くシンクロしている。
筆者の周りにも、「やりたいと思えることがない」とこぼす若者は多い。*1
でも、その言葉は、「何かを起こす力」がその人の中に宿っているからこそ、こぼれてくるものだと思う。
どんな些細なことでもいいから、夢を持って生きたいものだ。

*1:筆者も若者だが