ロボットって言うな

H氏と話していたときに「ガンダムファンと話しててガンダムのことを“ロボット”って言ったら怒られた」と言う話題が出た。
そのときは笑って流したが、何を隠そう筆者自身が「ロボットって言うな、モビルスーツだ!」と怒るタイプの人間である。
 
さて、ではなぜ我々ガンダムファンはモビルスーツをロボットと呼ぶことに違和感を覚えるのか。
 
「ロボット」という言葉はチェコ語で“労働”を意味する“ロボタ”を語源とするとされ、
その初出はチェコスロヴァキアの小説家カレル・チャペック1921年に発表した戯曲「R.U.R.」であり、
・・・
要するに、古い言葉なのだ。原始的といってもいい。
 
鉄腕アトム」や「鉄人28号」において、アトムや鉄人は作中でも「ロボット」と呼ばれていた。
しかし、数多くのロボット作品が世に出るようになり、ロボットは多様化していく。
そんな中で、おそらく初めて作品内のロボットに新しい名前を与えた作品が登場した。
それが、「機動戦士ガンダム」であり、その作中、登場するロボットは「モビルスーツ」と呼ばれる。
ここには、「人が搭乗して動かす機械はロボットではない」という意図が込められているというが、
ロボットアニメの歴史の中では、それ以上に大きな意味があった。
 
「差別化」だ。
 
作中で徹底して「モビルスーツ」と呼ばれることにより、ガンダムをはじめとするロボットたちには
モビルスーツという個性」が生まれた。新しい名前を授かり、彼らは新しいロボットになることが出来た。
モビルスーツは、ロボットから独立することに成功したのである。
  
もちろんこれには、モビルスーツが従来の作品に登場するロボットとは
一線を画した描かれ方をしていたことが大いに関係している。
モビルスーツは「スーツ」という単語の示すとおり「宇宙服」としての属性を持っている。
搭乗者の宇宙空間における生命維持を確保すると共に、
搭乗者の身体の延長として人間が持つ武器をそのまま巨大化させたような兵器を操る。
モビルスーツは巨大な宇宙服なのだ。
昔、「ガンダムって人がああいうスーツを着て戦うものだと思ってた」という話を聞いたことがあるが、
これはあながち間違いではない。
 
話が脱線してしまった。
上記の通り、数多あるロボット群の中で独自の地位を築くことに成功し、モビルスーツは隆盛した。
それに続けとばかりに、ガンダムに続く(特にリアルロボットに分類される)作品には、
作中に登場する機械群に、「ロボット」に代わる固有の名称を与える作品が続出する。
 
例えば、装甲騎兵ボトムズに登場するロボットは「AT=アーマードトルーパー」と呼ばれる。
ATは読んで字のごとく「装甲騎兵」を意味し、金属製の巨大な(といっても全高10mも無いのだが)歩兵である。
モビルスーツと異なり主に地上戦に用いられ、脚部の無限軌道を用いた独特の挙動が特徴である。
また案外装甲は薄く、[歩く棺桶]などと言われることもある。
 
機動警察パトレイバーに登場するロボットは「レイバー」と呼ばれる。
レイバーとは“Labor”すなわち労働者であり、ロボットという単語の原点に立ち戻ったかのような意味を持つが、
作中においては「重機」としての属性を持つ。事実、作中に登場する一般レイバーのほとんどは建機である。
そして警察組織においては「特車」と呼ばれ、車両の延長として扱われている。
 
また話が脱線してしまったような気がするが次が結論。
上記の通り、ロボット作品内におけるロボットの固有の名称は、
その作品においてロボットがどのような役割を持っているのかを端的に現すものであり、
その作品に登場するロボットたちを「ロボットという普通名詞」から解放し、
彼らの個性を主張するものなのだ。
そんな彼らに対して「だってロボットじゃん」などと言ってしまうのは、彼らの個性を蔑ろにし、
ロボット作品における彼らの重要度を軽視するものであるから、ファンとしては黙っていられないのだ。
 
以上でございます。ガッテンしていただけましたでしょうか!?(ぇ