朝ぼらけ宇治の川霧絶え絶えに現れ渡る瀬々の網代木

やがて夜白む 鳥たちもさえずるmorning
崩れるように体を横たえ・・・*1

ていたのだが、どうも眠れそうにないので、起きて散歩に行くことにした。
時刻は4時半。


家の近くの端を通りかかると、心地よい風が頬を撫でる。
夏の香りだ。
しばらく、欄干に肘をついて黄昏ることにした。
曙に黄昏るとは、なんとも妙。


ちゃぷん、と音がしたので目をやると、
浅瀬に乗り上げたフナが、勢いよく水を掻いて深みに戻ったところだった。


雲がやたらと速く流れている。
今、俺を心地よく扇いでくれている南東の風は、上空では思った以上に激しいようだ。


ふと電線に目が止まった。カラスが3羽、とまっている。
ハシボソガラスであろう。明け方に山から飛び立ってえさを探し、
夕暮れになると子供たちと共に家路につく、日本人に最も馴染み深いカラスだ。
ハシブトガラスのほうが、悪い意味では馴染み深いかもしれないが)


3羽のうち2羽が、しきりに鳴いている。
少し離れたところにもう1羽がいて、こちらは鳴こうとはせず、じっとしている。
すると、鳴いていた2話のうちの片方が、すっと滑空して離れていた1羽のそばに止まった。
取り残された1羽も、慌てたように後を追う。
ところが、今度は離れていた1羽が、その2羽の間をするりと抜けて、
さっきまで2羽が止まっていたあたりに移動してしまった。


なるほど、鳴いている2羽がオスで、もう1羽はメスなのだろう。
オス2羽はライバルの出方を伺いつつ、どうにかしてメスにアプローチを仕掛けようとしているのだ。


先ほどうまく逃げられた2羽だが、諦めずにまた鳴き始めていた。
と、今度は唐突に、先ほど出遅れたほうのオスが素早くメスに近づいた。
もう1羽もすかさず後を追う・・・が、
今度は完全に嫌われてしまったようで、彼女はそっぽを向いて山のほうへ飛んで行ってしまった。


可哀想に、想いを伝え切れなかった2羽は、まだ並んで電線に止まっている。
だがその姿は、それまでとは打って変わって、何やら和やかな雰囲気を醸し出していた。


「また、ダメだったなぁ」
「あぁ」
「この際、別の娘狙ってみるのも手じゃねえの?」
「いや、俺はあの娘にこだわるぜ」
「…お前がそう言うなら、俺もみすみす引き下がるわけにはいかねえな」
「いやいや、引き下がってくれて結構だよ」
「何だよ。そんなに自信があるのか。ボロボロだったくせに」
「ボロボロだったのはお前も一緒だろ。
 今度は秘策を用意してくるつもりなんだよ」
「秘策?何するつもりだ」
「お前に教えるわけないでしょ」
「ちっ…
 好きにしろよ。俺もお前に負けないくらいの秘策、考えてきてやるからな!」
「まあ、せいぜい頑張ってくれ」
「お前もな!」